「介護報酬は上げた」――その陰で、訪問介護だけが削られた(2024年度改定の政治責任)

1.結論:2024年度改定は「全体プラス」だが、訪問介護の基本報酬はマイナスだった

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定は、政府資料上「全体で+1.59%」とされる。内訳は処遇改善に0.98%、それ以外に0.61%を充当する、という設計である。
ところが、この「全体プラス」という見出しの陰で、在宅の要である訪問介護の基本報酬は引き下げとなった。これは“噂”ではなく、厚生労働大臣会見でも「(経営実態調査で利益率が高い等を根拠に)基本報酬を引き下げる方針」として説明されている。 さらに労働組合側も、他サービスの多くが引き上げ方向の中で、訪問介護だけが引き下げとなった点を「極めて遺憾」と明記している。

つまり、2024年度改定の評価は、単純な「上げた/下げた」で済まない。**“どこを上げ、どこを下げたのか”**が本丸である。

2.「誰がやったのか」:2024年度改定を実施した政権と厚労大臣

まず時系列を確定する。2024年3月時点で首相は岸田文雄であり、首相官邸の記者会見記録も「岸田内閣総理大臣」と明示している。
そして、2024年度の介護報酬改定を所管し、社会保障審議会の諮問・答申の受け手となった厚生労働大臣は武見敬三である。就任会見で本人が「厚生労働大臣を拝命した」と述べており、少なくとも2023年9月の内閣改造以降、当該改定の政治責任ライン上にいることが公式に確認できる。

ここで重要なのは、“個人が単独で全部決めた”という雑な話ではない点だ。介護報酬は、厚労省と審議会(介護給付費分科会等)の検討を経て、最終的に政府方針として実施される。だからこそ、政治責任の論点は「特定個人への悪口」ではなく、岸田政権=自民党中心の政府の意思決定として、訪問介護をマイナス改定したという批判として成立する。

3.なぜ訪問介護が削られたのか:政府説明は「利益率が高い」だが…

武見大臣会見では、訪問介護の基本報酬引き下げの根拠として、経営実態調査での利益率が相対的に高いこと等が挙げられている。
しかし同じ会見で、厚労省調査として「訪問介護事業所の約4割が赤字」との問いが出ている。 つまり、政府側のロジックは「平均」や「一部データ」を根拠に“下げても耐えられる”とみなした格好だが、現場側から見れば、すでに赤字が相当割合で存在する領域に対して基本報酬を削るのは、倒産・撤退を誘発するリスクがある。

加えて、訪問介護は他サービスよりも人材確保が難しい。移動時間、直行直帰、短時間稼働、キャンセルの影響、地域偏在――こうした構造要因を抱える。公定価格の基本報酬を削れば、賃金原資や採用余力に直撃し、供給制約が先に来る。

政策としての本質はここだ。
**訪問介護は、在宅生活を支える“インフラ”**である。病院でも施設でもなく、自宅で暮らす高齢者の生活動線を支える最後の手である。インフラの基本料金を削る政策は、供給の細りとして戻ってくる。

4.「倒産が相次いだ」——2024年のデータは、改定の危うさを裏づける

では、2024年に介護事業者の倒産・撤退が増えたという認識は、統計で裏づけられるのか。結論として、裏づけられる。

東京商工リサーチは、2024年の「老人福祉・介護事業」の倒産が過去最多の172件に達したと公表し、休廃業・解散も612件、合計784件にのぼったとしている。さらに休廃業の内訳では、訪問介護が448件で全体の7割超を占めたとされる。
この数字が示すのは、単なる「倒産が増えた」ではない。市場から消えた(=提供できなくなった)訪問介護が突出しているという事実である。

帝国データバンクも、別の集計枠(負債1000万円以上、法的整理)で「老人福祉事業者」の倒産について、2024年が2000年以降で最多の140件だったと位置づけ、業態別では「訪問介護」が大きな比重を占める状況を指摘している。
集計条件が違っても、2024年に介護領域の倒産が高水準に達し、訪問介護が脆弱である構図は共通している。

ここで注意したいのは、倒産・撤退の原因は単一ではないことだ。物価高、人件費高騰、人材難、競合、借入返済開始などが複合する。
ただし、複合要因で苦しい局面にあるときに、公定価格の「基本報酬」をマイナス改定するのは、政策として“押し返し”ではなく“追い打ち”になりやすい。統計はそのリスクを実際の退出件数として映している。

5.「ちょろっと上げた」の評価:全体+1.59%と、訪問介護マイナスの同時成立

「介護報酬を上げた」という言い方が、完全に嘘だとは言わない。政府資料上、全体改定率は+1.59%であり、処遇改善分も明記されている。
だが、政策評価として重要なのは、「全体が上がった」ことではなく、どのサービスの基本報酬を上げ、どこを下げたかである。そして訪問介護については、少なくとも“基本報酬引き下げ方針”が政府側から公式に説明されている。

この矛盾は、制度設計の優先順位を露呈する。
つまり、政府は「処遇改善」を掲げつつ、在宅の中核である訪問介護に対しては、基本単価を削ってでも“メリハリ”を付ける判断をした。
その帰結は、倒産・休廃業・解散の増加という形で現場に表出した――少なくとも2024年の統計は、その方向性を否定しない。

6.批判の焦点:個人攻撃ではなく、「自民党政権の制度運用」の問題

本稿の結論は、特定個人への人格攻撃ではない。政策批判としての要点は二つに尽きる。

第一に、2024年度改定の政治責任は、**岸田政権(自民党中心の政府)**の政策決定として位置づけられる。
第二に、訪問介護の基本報酬を引き下げた判断は、在宅インフラの供給制約と退出を招きやすく、2024年の倒産・休廃業統計が示す「訪問介護の脆弱性」と整合する。

自民党政権が「介護に手を打った」と言うなら、問うべきはここだ。
なぜ、最も崩れると生活が直撃される訪問介護の基本料金を削ったのか。
そして、その判断のコストを、誰がどこで支払っているのか。

“現場が自助努力で何とかしろ”という発想は、在宅ケアでは破綻する。家族の限界、地域差、独居高齢者の増加――在宅は「頑張り」で埋まらない。必要なのは、公定価格の設計を含めた制度責任である。


参考文献(本文で引用した一次・公的資料中心)

  • 厚生労働省「令和6年度報酬改定と賃上げについて(大臣折衝事項 抄)」
  • 厚生労働省「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(改定率+1.59%等)」
  • 厚生労働省「武見大臣会見概要(訪問介護基本報酬引き下げ方針の説明)」
  • 首相官邸「岸田内閣総理大臣記者会見(2024年)」
  • 厚生労働省「武見大臣就任会見(2023/9/14)」
  • 東京商工リサーチ「2024年『老人福祉・介護事業』倒産・休廃業調査」
  • 帝国データバンク「老人福祉事業者の倒産動向(2024年最多等の言及)」

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