――なぜそれは消費税減税の代わりにならないのか
私からすれば、やはり案の定だった。
結局のところ、消費税は下げない――。
政治の動きを見ていると、どうしてもその方向に収束していくように思えてならない。
そして、その代替策として持ち出される“いかにもそれらしい案”も、おおよそ見当がつく。
おそらく提示されるのは、給付付き税額控除だろう。
一見すると、この制度は非常に聞こえがいい。
低所得者を支援し、消費税の逆進性を緩和する。
負担の重い人にお金を戻す。
言葉だけを並べれば、確かに理想的に見える。
しかし、はっきり言っておきたい。
給付付き税額控除は、消費税減税の代わりにはならない。
それどころか、制度設計次第では生活をより複雑にし、実質的にマイナス効果すら生みかねない。
さらに言えば、食料品ゼロ税率も同じ問題を抱えている。
つまり私の結論は極めて単純だ。
給付付き税額控除も、食料品ゼロ税率も、どちらもやってはいけない。
ではなぜ、そう言い切れるのか。
最大の問題は「確定申告の強制」にある
給付付き税額控除の核心的な問題は、制度の前提条件にある。
それは何か。
控除を受けるために、確定申告が必要になる
という点だ。
現在の日本では、多くの会社員は年末調整で税務手続きが完結する。
確定申告を行うのは、自営業者や一部の所得構造を持つ人に限られる。
つまり、**確定申告は“例外的な手続き”**なのである。
ところが給付付き税額控除を導入すれば、
支援を受けるために申告が必要になる。
これは何を意味するか。
支援策の名を借りた行政手続きの強制
である。
制度は、本来、生活を楽にするために存在する。
しかしこの仕組みは逆だ。
制度を使うために、生活側が制度に合わせて負担を負う。
ここに決定的な転倒がある。
岸田減税と同じ「実感なき減税」
もう一つ重要なのは、給付付き税額控除の構造が、
かつて大きな批判を浴びた所得税の定額減税と極めて似ている点だ。
月次処理、事務負担、分かりにくい効果。
減税と言われても、日常生活で実感しにくい。
結果として、
やっているのに評価されない政策
になってしまう。
消費税減税との違いは明確だ。
- 消費税減税:レジで即時に分かる
- 税額控除 :後から条件付きで戻る
この差は、単なる手続きの違いではない。
生活感覚の違いそのものである。
「365日レシート保存社会」という現実
さらに深刻なのは、消費税分を給付で調整しようとした場合に生じる問題だ。
消費額を把握しなければ、正確な控除はできない。
突き詰めれば、
年間の支出証明=レシート管理
に近づく。
これは極端な仮定ではない。
制度を厳密に設計すればするほど、
証明責任は個人側に寄っていくからだ。
想像してみてほしい。
- 食料品
- 日用品
- 交通費
- 医療費
- 生活必需品
そのすべてのレシートを一年間保管する生活。
聞いただけで、多くの人がうんざりするはずだ。
面倒すぎる制度は、存在しても機能しない。
これは行政の世界では常識に近い原則である。
なぜ消費税減税だけが即効性を持つのか
ここで原点に戻る必要がある。
なぜ多くの国が、景気対策として消費税減税を選ぶのか。
理由は驚くほど単純だ。
① 手続きが不要
国民は何もしなくていい。
② 効果が即時
買い物した瞬間に価格が下がる。
③ 事務コストが小さい
行政も企業も追加処理がほぼない。
つまり、
最もシンプルで、最も速く効く。
政策として、これ以上分かりやすいものはない。
給付付き税額控除が生む分断
さらに見逃せないのは、制度が社会に生む影響だ。
給付付き税額控除は、
- 申告できる人
- 制度を理解できる人
- 手続きを完了できる人
に有利である。
一方で、
- 高齢者
- 非正規労働者
- 制度情報にアクセスしにくい人
ほど取り残される。
つまりこれは、
弱者支援の顔をした選別装置
になり得る。
ここに制度の倫理的な問題がある。
食料品ゼロ税率も万能ではない
食料品ゼロ税率も、直感的には魅力的に見える。
しかし実務的には、
- 対象範囲の線引き
- 事務コスト増大
- 加工品や外食の扱い
など、複雑な問題を抱える。
結果として、
家計全体の負担は大きく変わらない
という事例が、海外でも繰り返し指摘されてきた。
本当に必要なのは「単純さ」
ここまで見てくると、結論は明らかだ。
必要なのは、
複雑で精巧な制度ではない。
単純で、即効性があり、
誰にでも理解できる政策
である。
その条件を満たすものは何か。
答えは一つしかない。
消費税を下げること。
それだけで、
- 申請不要
- 証明不要
- 分断なし
- 即効性あり
という効果が同時に実現する。
「やっている感」の政治を越えるために
給付付き税額控除は、政治的には都合がいい。
減税と言える。
財源論とも折り合いをつけやすい。
効果は見えにくい。
だが問うべきは、そこではない。
国民の生活が本当に楽になるのか。
政策評価の基準は、この一点だけで十分だ。
終わりに
もしこれから、
「新しい支援策」
「画期的な制度」
として給付付き税額控除が提示されたなら、
私たちは冷静に見極めなければならない。
それは本当に減税なのか。
それは本当に支援なのか。
それとも――
複雑化しただけの現状維持
ではないのか。
消費税減税という、
最も単純で確実な選択肢を避け続ける限り、
生活の重さは変わらない。
問われているのは制度設計の巧妙さではない。
政治が、本気で生活を軽くする意思を持つのか。
ただ、それだけである。

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