福祉国家の制度構造比較――介護労働力配置・無償ケア・2040年需給推計から見る日本の課題

Ⅰ.問題意識

福祉国家に関する議論では、「北欧では市民が広く介護や福祉に関与している」という抽象的な表現が用いられることが多い。しかし政策分析においては、労働力配置、無償ケア比率、人口構造、財政負担の四点を統合的に検証する必要がある。

本稿はOECD統計および日本政府公表資料を基に、制度構造を比較検討する。


Ⅱ.有償介護労働力の国際比較

指標

OECDは「65歳以上人口100人あたりの長期介護(LTC)従事者数」を各国比較指標として用いている。

図表1:LTC従事者数(65歳以上100人あたり)

国名人数
ノルウェー13.0
スウェーデン12.0
日本6.8
ドイツ5.5
ベルギー4.1
オーストリア4.0
OECD平均5.0

出典:OECD, Health at a Glance 2025, Country Notes (2025)

分析

北欧諸国はOECD平均の約2倍の水準にあり、介護を公的雇用として制度化している。一方、ベルギー・オーストリアは北欧より低い。したがって「欧州全体で副業的介護が広く普及している」という理解は、少なくとも有償労働力の厚みという観点では支持されない。


Ⅲ.無償介護(インフォーマルケア)の頻度

OECDは50歳以上を対象に、家族等への無償介護の頻度を調査している。

図表2:無償介護実施者割合(50歳以上)

区分OECD平均
無償介護実施者合計約13%
毎日介護6.3%
毎週介護6.9%

出典:OECD, Health at a Glance 2025, Informal Carers (2025)

国別ではオーストリア、ベルギーが20%超と報告されている。
これは家族介護の負担構造を反映する。

北欧は公的サービス比率が高く、家族負担比率が相対的に低い傾向がある。
制度化の度合いが、無償ケア比率に影響している。


Ⅳ.日本の人口構造

高齢化率

日本の高齢化率(2024年10月1日時点)は29.3%である。

出典:内閣府『令和7年版 高齢社会白書』(2025)

これはOECD諸国の中でも最上位水準であり、需要側圧力が突出している。


Ⅴ.日本の介護従事者数

2024年10月1日時点の介護職員数は2,126,227人。

出典:厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査」

数量的規模は大きいが、高齢化進行速度との整合が問題となる。


Ⅵ.2040年の人材需給推計

厚生労働省の推計(第9期介護保険事業計画関連資料)では、

  • 2022年度:約215万人
  • 2040年度必要数:約280万人
  • 不足見込み:約69万人

出典:厚生労働省「介護人材需給推計(2023)」資料

約70万人規模の不足は、単純な賃金改善のみでは吸収困難な水準である。


Ⅶ.介護関連支出の対GDP比

OECDデータによれば、長期介護支出(公的・民間合算)のGDP比は以下の通り。

図表3:長期介護支出(対GDP比)

国名対GDP比
ノルウェー約3.5%
スウェーデン約3.2%
日本約2.0%
ドイツ約1.9%
OECD平均約1.7%

出典:OECD, Health at a Glance 2025, Long-term Care Expenditure

北欧はGDP比で高い水準を維持している。
日本は高齢化率が突出しているにもかかわらず、支出比率は北欧より低い。


Ⅷ.介護報酬と賃金

令和6年度介護報酬改定:+1.59%(うち処遇改善0.98%)
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の概要」

常勤介護職員平均給与:338,200円(2024年9月)
出典:厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」

賃金は改善傾向にあるが、需給ギャップを埋めるには不十分との指摘がある。


Ⅸ.総合評価

比較から導かれる構図は明確である。

  1. 北欧は介護労働力を厚く公的配置している。
  2. 一部欧州諸国は家族介護比率が高い。
  3. 日本は世界最高水準の高齢化率を抱える。
  4. 2040年に約70万人不足が見込まれる。
  5. 支出対GDP比は北欧より低い。

日本の課題は文化的問題ではなく、制度設計と財政配分の問題である。

介護は公定価格市場である。
価格設定は労働供給を規定する。
労働供給は制度の持続可能性を規定する。

構造的負荷に対し、財政投入と労働条件改善をどの水準まで引き上げるか。
議論はその点に集中すべきである。

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