第一次高市政権が発足し、財務大臣に就任したのが
片山さつき 氏。
彼女が過去に語っていた方針は明確です。
「赤字国債に頼らず、税収の上振れ分(いわゆる上ぶれ分)を活用して積極財政を行う」
そして現在の 高市早苗 政権も、その方向性を踏襲している。
この瞬間に、私は「これは危ない」と思いました。
なぜなら、それは「積極財政」に見せかけた、実質的な“財政規律優先路線”だからです。
① 「赤字国債に頼らない積極財政」という矛盾
まず確認しておきましょう。
日本は自国通貨建て国債を発行できる通貨発行権国家です。
財政支出は「税収があるから可能」なのではなく、政府が支出し、その結果として税が回収される構造になっています。
これはMMTだけの主張ではありません。
たとえば 日本銀行 は、資金循環統計やマネタリーベースの説明の中で、
- 政府支出は日銀当座預金を通じて民間に供給される
- 国債は金融資産として保有される
という実務構造を明示しています。
つまり、
「税収の上振れ分でしか支出できない」
という考え方は、制度的な制約ではなく、政治的な選択にすぎない。
しかも「上振れ分を使う」というのは景気が良いときしか支出を増やさないということ。
景気が悪いときこそ財政を拡大するのがマクロ経済政策の基本ですが、このロジックでは逆回転が起きる。
これは財務省が最も好むフレームです。
② ワイズスペンディングとは何か?
「ワイズスペンディング(Wise Spending)」という言葉は、日本では小泉改革以降よく使われました。
無駄を省き、効率的に使い、成長分野に重点配分する。
一見すると合理的です。
しかし問題はここ。
「何が成長分野なのかを誰がどう判断するのか?」
これは極めて恣意的です。
③ 成長分野は事前に分からない
経済学の基本でもありますが、将来の成長産業を事前に完全に見抜くことは不可能です。
例えば:
- 2000年代初頭にスマートフォン市場を正確に予測できたか?
- EV市場の現在の競争構造を10年前に完全に予測できたか?
政府が「成長分野」と指定した産業が必ず成功する保証はない。
むしろ、成功している産業の多くは、広範な基盤投資の上に偶然的に生まれています。
つまり本来必要なのは、
特定分野への選別集中ではなく、経済全体の底上げ。
これが「スペンディング・ファースト」の発想です。
④ スペンディング・ファーストとは何か?
スペンディング・ファーストは、
まず必要な支出を行う。財源は後から調整する。
という順序の話です。
これは無制限に支出せよという意味ではありません。
制約は「税収」ではなく、
- インフレ率
- 実物資源の余力
- 労働力の供給能力
です。
例えば、今の日本。
- 実質賃金は低迷
- 介護・保育・医療は人手不足
- インフラ老朽化は深刻
国土交通省の資料でも、橋梁やトンネルの老朽化が急速に進んでいることが示されています。
ここに支出することは「未来への投資」です。
⑤ 私が本当の成長投資だと思うもの
私ははっきり言います。
本当の成長投資は、
- 介護
- 医療
- 保育
- 教育
- インフラ維持
- エッセンシャルワーカーの賃上げ
です。
なぜか?
これらは「消費性向が高い層」に直接所得を渡すからです。
賃金が上がれば消費が増える。
消費が増えれば企業収益が改善する。
結果として税収も増える。
これがマクロ経済の循環。
「成長分野に投資するから成長する」のではない。
所得が増えるから成長する。
順番が逆なんです。
⑥ 財務省が喜ぶ理由
「赤字国債に頼らない」
「税収の上振れ分で」
このフレームは財政規律を最優先する発想。
財務省の長年の基本思想は、
- 国債残高削減
- プライマリーバランス黒字化
- 歳出抑制
です。
つまり今の路線は、名前は積極財政でも中身は“管理型財政”。
⑦ 言葉のすり替えに注意せよ
ワイズスペンディングとスペンディング・ファースト。
似ているようで、根本思想が違います。
| ワイズスペンディング | スペンディング・ファースト |
|---|---|
| 財源前提 | 支出先行 |
| 選別集中 | 広範な底上げ |
| 財政規律優先 | 実体経済優先 |
| 官僚判断 | マクロ循環重視 |
高市政権の施政方針演説には、
「成長分野に重点投資」
という言葉はあっても、
国民全体の所得を底上げする
という思想は薄い。
ここが決定的な違いです。
⑧ 「責任」とは何か
よく言われます。
「責任ある積極財政」
しかし本当の責任とは何でしょうか?
- 将来世代に国債残高を減らすこと?
- それとも老朽インフラを放置しないこと?
- 介護崩壊を防ぐこと?
私は後者だと思います。
国債は将来世代の負債ではなく、
将来世代の資産でもあります。
一方、崩れた橋や疲弊した介護現場は、
確実に将来世代への負担です。
⑨ 結論
高市政権が掲げる路線は、
「積極財政」という言葉を使った
ワイズスペンディング型財政管理。
しかし日本に今必要なのは、
スペンディング・ファースト
= 所得をまず増やすこと
成長分野を当てるゲームではない。
社会の土台を太らせること。
エッセンシャルワーカーの賃金を上げること。
そこにお金を出すこと。
それこそが、本当の意味での成長投資です。
言葉に騙されてはいけない。
「ワイズ」に聞こえるものが
必ずしも賢いとは限らない。
順番を間違えれば、
どんな美辞麗句も、ただの緊縮の化粧になる。
私は、そこをはっきり書いておきたい。
これが、今の私の結論です。

コメント